小 笠 原 裏 海 道

　「おがさわら丸」とともに小笠原島民３千人の生活を支える不定期貨物船「第28共勝丸」で父島に出かけてきました。まともに行っても片道45時間、そのかわり「おがさわら丸」より安い運賃で食事付きということで人気上昇中のようです。でも決して楽には行かせてくれない、自然と海の厳しさを教えてくれる船でもあります。

月島ふ頭

　共勝丸は、勝どき橋を越えて徒歩15分ほどの月島ふ頭から出港します。事前に必ず予約して、前日に再度連絡、出港予定を確認しておきましょう。乗船手続きは出港当日の10時半頃です。事務所で名簿に記入して運賃を支払うだけなので切符はありません。手続き後、船に案内されます。出港時間を確認しておきましょう。
　出港は12時前後ですが、初日の昼食は自分で用意します。築地の吉野家で牛丼を買ってくるのもいいでしょう。

共勝丸グッズ

　切符の代わりに「粗品」のタオル、観光パンフレット、絵はがきなどがもらえます。アンケート用紙と返信用封筒も。
　かゆいところに手が届く、うれしいサービスです。

隅田川

　時間になると何の合図もなく出港します。買い物などに出かけて遅れても待ってはくれませんので、十分ご注意を。
　春には浜離宮の桜が見送ってくれます（右側に見えるピンクがそれです。正面には東京タワーが見えますね）。その後、竹芝桟橋の前を通り、レインボーブリッジをくぐっていきます。

有明ふ頭

　いったん有明のフェリーターミナル近くの殺風景な場所に接岸します。ここでガソリン、プロパンガスなどの危険物を積み込みます。

赤旗

　昼間は赤い旗（国際信号旗：Ｂ旗）を掲げます。旗が表す信号の意味は「私は危険物を搭載している」。

東京湾

　外海が荒れているときはここで停泊し、父島到着は１日遅れることになります。
　富士山の夕焼け、羽田空港やディズニーシーなどの夜景を楽しむよいひととにきなるでしょう。

太平洋

　静かな東京湾を出ると、海は大きく姿を変えます。色は青く、波は高く・・・でもまだ序の口です。

鳥島

　東京湾を出た翌日は１日海の上です。天気が良ければ鳥島が見えます。
　「おがさわら丸」がこの近くを通るのは行きも帰りも深夜なので見ることはできません。

だんらん

　海を眺める以外の楽しみは食事、酒と楽しい語らいでしょう。あまり揺れなければ・・・ですが。

荒れ海

　天気に恵まれないとこんな状態です。このときは最大傾斜30度。ブリッジに上がる急な階段は「垂直」になります。十分注意して行動しましょう。

聟島

　最後の夜が明けると聟島列島が見えてきます。ここから父島まではおよそ３時間です。

二見港

　順調にいけば、３日目の朝、父島二見港に入港します。私は２回とも４日目（所要時間66〜69時間）になってしまいましたが・・・

旅を終えて

　３泊４日、寝食をともにした仲間たちです。（船室は男女別になっています。誤解なく・・・）
　左は2004年３月のもので、この航海はシェルパ斉藤「小笠原貨物船航海記」（「ビーパル」2004年5月号から３回にわたり連載）にも紹介されています。右はその翌月に訪島したときのもので、このときは往路が荒天で鳥島が見えなかったので両名リベンジを誓って帰路にも共勝丸に乗っています。

• 私と共勝丸

  • 共勝丸との出会い

    　一般の旅行者が共勝丸のことを知るのは、ユースホステルなどで人づてに、あるいはネット上の情報からというケースが多いようです。最近は雑誌、書籍で紹介されるようにもなってきました。
    　私も1980年の春、母島の民宿で同室の人に誘われて父島まで乗ったのが共勝丸初体験です。小笠原はそのときが初めてで、島に着いて３日目のことでした。
    　現在は小笠原に何度も出かけても共勝丸のことを知らないという方もがいるようですが、当時は積極的に宣伝していました。「定期船で日程が合わない方、もう少し滞在したい方は共勝丸をご利用ください」といった感じで。 　でも、東京〜小笠原間を乗る勇気はありませんでした。時間がかかるし、揺れるだろうな〜ということで・・・
    
    

  • 乗船のきっかけ

    　小笠原には1981年の春に行って以来しばらく遠ざかっていました。
    　海外旅行が身近になって、初めての日本脱出を果たして欧州に出かけて以来、すっかりやみつきになってからは国内旅行から遠ざかるようになってしまいました。とくに小笠原は割高感があるので。世界各地を歩きまわり、七大陸すべてに足を踏み入れました。その最後の大陸へ向かう船が共勝丸を思い出すきっかけとなったのです。
    　南極大陸に行くには、アルゼンチンの南端の街ウスワイアから船に乗るのが一般的です。海路約千キロ、一般的なクルーズ船（砕氷船や観測船を改造したもの）で２泊３日、45時間ほどかかります。
    　大陸南端のホーン岬の南には、大荒れで悪名高いドレーク海峡が控えています。２日がかりで怒濤の海を越えた先は、真夏なのに雪と氷に覆われ、ペンギン、アザラシそしてクジラが遊ぶ別世界でした。南極観光を終え、再びドレーク海峡を渡って無事生還しました。ホーン岬の近くの島ではアホウドリが空を舞っていました。
    　太平洋を隔てた２つの航路は意外にも共通するところが多くあります、海路千キロ、対岸は別世界、クジラそしてアホウドリ・・・。そして何よりも、あの揺れを乗り切れたからには共勝丸でも行けそうかなという自信がめばえてきました。
    
    

• 乗ってみての感想

  • 乗り心地

    　定期船の大部屋よりははるかに快適です。専用のベッドに清潔なシーツと枕カバーが用意されています。ただし狭くて小さい船ですのでいろいろと制約があります。神経質な方には向かないかもしれません。たとえば・・・
    　パブリックスペースはわずかです。寝室以外は食堂だけです。天気が悪いときや夏冬はデッキで過ごすのも大変です。ブリッジの居心地はよいです。
    　寝室は２段ベッドの４人部屋でテレビ・ビデオと冷蔵庫がついています。この設備を見る限りは「おがさわら丸」の１等船室並みですが、４人泊まると狭苦しい感じです。でも満員になることは少なく、実際の乗船者は旅客定員９人に対して多くて５人、平均２〜３人程度のようです。部屋割りは男女別で、「人口密度」ができるだけ低くなるよう配慮してくれます。たとえば５人のときは、４人部屋２室に２人ずつ、あと１人は予備室（個室）といった感じです。
    　トイレは和式だけです。「おが丸」にはないお風呂があるのは魅力です。揺れが大きいときは気をつけましょう。
    　船内は分煙されていませんのでタバコは寝室以外どこでも吸えます。船員の皆さんもよく吸います。吸わない人は苦しいかもしれません。
    
    

  • 食事

    　若い皆さんにも十分満足できる量とおいしさです。大食漢でも足りないことはないでしょう。ただしメニューがあらかじめ決まっているのわけではないので、何が出てくるかはわかりません。そのときの楽しみにしておきましょう。
    　おうひとつの大きな楽しみの酒を相当量持ち込みましたが、地上と同じだけは飲めませんでした（揺れると・・・）。
    
    

  • 揺れ

    　多くの方々が、共勝丸に乗ることをためらう理由はこれですが、「ははじま丸」やダイビング、ホエールウオッチングの船よりは楽だと思います。ただし、波が高いとそれなりに揺れます。
    　船酔いに苦しんで食事にも出てこられないお客さんがよくいるようですが、私が乗った１往復半では、全員、一食残らず平らげていました（船員さんによれば、このようなことも珍しいということですが）。
    　私の感覚では、海の状態がよいときはもの足りない感じ、多少シケている状態でドレーク海峡と同じ程度といったところでしょう。南極を目指そうと思う人は、まず共勝丸を体験して慣れて（鍛えて）おくというのもよいかもしれません。
    
    

  • その他

    　なお父島停泊中に船内宿泊ができるという情報があり、体験された方も多くいますが、原則としてはできないことになっているようです。船は宿泊施設ではありませんし、島に泊まれるところは十分にあるということだと思います。ですから運がよければという程度に考えておきましょう。